聖母被昇天の祭日と天の元后聖マリアの記念日

主任司祭 ヨゼフ濱田壮久神父

暑い日が続く8月となりました。当教会では、8月15日には聖母被昇天の祭日に諸共同体が共に集い、国際ミサを捧げ、8月27日にはファティマの聖母のご出現100周年を記念して、駐日教皇大使のチェノットゥ大司教様が日本の教会のために入手してくださったファティマの聖母の御像をお迎えして、横浜教区長である梅村司教様の司式で国際ミサが捧げられます。また、8月29日(火)には、10:30から横浜教区中のレジオマリエ会員が集い、聖母のご出現100周年を記念して御像の前でロザリオの祈りを捧げ、ミサを捧げます。8月30日(水)には、フィリピン共同体が17:00から20:00まで御像の前で聖時間を過ごし、特に18:30から19:30まではロザリオの祈りを含む、祈りの集いを行います。そして、8月31日(木)には、中国共同体が19:00から20:00まで、ロザリオの祈りを含む祈りの集いを行います。

末吉町教会は聖母の汚れなきみ心(Cor immaculate Mariae)に捧げられていますから、聖母マリアの庇護のもとに私たちは信仰生活を歩んでいます。8月には、聖母マリアに捧げられた祝日が3つあります。まずは、8月5日の任意の記念日である「聖マリア教会の献堂」です。イエズスの母を「神の母」と呼ぶことが正しいと宣言したエフェソ公会議(431年)の後、シクスト3世教皇によって、ローマのエスクィリーノの丘に、神の母聖マリアをたたえる大聖堂が献堂されたことを記念する日です。のちに「サンタ・マリア・マッジョーレ」と呼ばれるようになったこの聖堂は、マリア様に捧げられた西方で最古の教会です。

次に8月15日には「聖母の被昇天」の祭日をお祝いします。そして、8月22日には「天の元后聖マリア」の記念日をお祝いします。この二つの祝日に大きく関わっている現代の教皇として尊者ピオ12世教皇様を挙げることが出来ます。尊者ピオ12世教皇様は1939年3月2日に着座し、1958年10月9日に帰天するまで教皇職にありました。
その教皇職は第2次世界大戦と共に始まり、世界中での冷戦の激化と緊張の高まりという平和が脅かされた時代の中で果たされました。常に平和を求め、困難の中にある人を助けました。例えば、ナチス政権下で行われた障碍者安楽死政策「T4作戦」には「自然道徳律に反し、また、神の掟にも反する」として、たびたび非難を行いました。また、ヨーロッパ大陸内で避難を続けるユダヤ人たちを積極的に保護し、多くのユダヤ人をバチカンにかくまい、命を救ったことで、第2次世界大戦後に建国されたイスラエル政府から「諸国民の中の正義の人」賞を贈られています。ちなみに、日本人外交官である杉原千畝氏も、「諸国民の中の正義の人」賞を受賞しています。
このような時代背景の中で、第1次世界大戦の最中に教皇として世界中のカトリック信者に「平和の元后(Regina pacis)」である聖母マリアに平和の取り次ぎを祈るように呼び掛けたベネディクト15世教皇様にならって、ピオ12世教皇様もまた、地上における平和の実現への取り次ぎを聖母マリアに嘆願していました。ピオ12世教皇様は、1950年11月1日、20世紀では教皇の不可謬権を行使した唯一の教皇として「教皇座からの荘厳な教義宣言(Ex Cathedra)」をもって、「聖母の被昇天」の教えを公布しました。
デンツィンガー・シェーンメッツァー編『カトリック教会公文書資料集』(以下、DS)収載の教皇令「ムニフィチェンティッシムス・デウス(Munificentissimus Deus)」では、「聖なる教父たちと神学者たちのすべての論証と考察の根本的な基礎は聖書である。聖書は, 子と密接に結合され,常に子の使命に参加している神の母をわれわれに示している。そのため,キリストを宿し,生み,自分の乳で育て,腕に抱きかかえたマリアの霊魂だけでなく,地上の生活を終った後にその体が,主から離れて過ごすということは考えられないことである。マリアの子であり,神の掟を完全に果したわれわれのあがない主が,永遠の父だけではなく,最愛の母をも尊敬したのは当然である。その上,キリストはマリアの体を腐敗から守る力を持っていたのであるから,実際にそうしたと信じなければならない。」(DS3900)と宣言し、聖母マリアが地上での人生を終えたのちに、その御体ごと天に上げられたことを信ずべき教えとして、教義として示しました。
ここで注目すべきは、聖母被昇天の根拠を聖書に置いている点です。ときに、聖母マリアに関わる諸々の出来事をわきに置いて考えてしまいがちですが、実は、聖母マリアに関する教会の教えは、聖書にその根を持っており、私たちがカトリック信者としての信仰生活を送るうえで、聖書と向き合う一つの方法が聖母マリアと向き合うことでもあるのです。ですから、聖母マリアを崇敬することは、決して、「女神信仰」や「偶像礼拝」ではありません。むしろ、聖書を通して天の御父のみむねがどのように歴史の中で実現してきたのかを見つめるための道として、「聖母マリアを通してイエズス・キリストへ(per Mariam ad Jesum)」の道が拓かれているのです。尊者ピオ12世教皇様は同文書を次のように続けます。
「すでに2世紀から教父たちは,マリアを新しいエヴァと呼んでいることを忘れてはならない。彼女は新しいアダム(キリスト)に従属していたが,原始福音の中にあるように(創世記3・15),地獄の敵との激戦において,キリストに密接に結びついていた。そして,異邦人の使徒の書簡において,いつも結びつけられている罪と死(ローマ5・6;1コリント15・21-26;1コリント15・54-57)に完全に打勝ったのである。したがって,キリストの栄光に輝く復活が,決定的勝利の本質的な部分,最終的なしるしであったのと同じように,罪に対するキリストとマリアの共同の戦いもまた,処女マリアの肉体の「栄光」によって終りを飾ったのである。 「この死ぬ者が不滅をまとうであろう時,死は勝利に呑まれた」という聖書のことばが実現すると使徒は言っている(1コリント15・54)。」(DS3901) このように、聖母マリアは私たちに信仰の道しるべを示し、すべての信者が聖母マリアと同じようにイエズス・キリストによって「罪と死」に打ち勝つ生き方をできることを教えて下さっているのです。
「『唯一で同一の予定の計画』によって,永遠の昔からイエズス・キリストと密接に結ばれていた神の母マリアは,原罪なくして母の胎内に宿り,神の母としても完全に処女であり,神であるあがない主の寛大な協力者であった。罪とその罰に完全な勝利をおさめた救い主は,最後にこれらの特典の最高の飾りとして,自分の母親の肉体の腐敗を免除したのであった。こうして,そのひとり子と同じように死に打勝ち,霊魂も肉体もともに天国の栄光にあげられ,そこで「万世の不朽の王」 (1テモテ1・17)であるそのひとり子の右に,輝かしい女王としての位置をしめている。」(DS3902)聖母の被昇天を祝うとき、それは、「天の元后」、「ひとり子の右におられる輝かしい女王」としての聖母マリアを祝うことも意味していることを尊者ピオ12世教皇様は教えてくださいました。

1950年の教義宣言から4年後、1954年10月11日に尊者ピオ12世教皇様は回勅「アド・チェリ・レジーナム(Ad caeli Reginam)」を公布し、聖母マリアが「天の元后(Regina caeli)」であることを論考し、8月22日を「天の元后聖マリア」の記念日と定めました。この日には、聖母マリアが神の子イエズス・キリストの母であり、神の救いのわざの協力者となったことを思い起こし、その生涯の終わりに天に上げられた聖母マリアが王であるキリストの栄光にあずかることによってすべてのものの女王として高められていることを記念します。
「天の元后聖マリア」の記念日のミサの集会祈願では、「天地を治められる神よ、あなたは聖母マリアを、天の元后、わたしたちの母としてくださいました。聖母の取り次ぎに支えられて、天の国の栄光にともにあずかることができますように。」と祈ります。
聖母マリアが被昇天の恵みを受けたこと、また、天の元后として戴冠されたことは、毎水曜日と日曜日に捧げられるロザリオの祈りの「栄えの神秘」の第4連と第5連の玄義にもなっています。聖母のご生涯を思い起こしながら、歴代教皇様の呼びかけに応えて、「平和の元后」である聖母マリアに地上における平和の実現を求める祈りを取り次いでいただくように願って過ごす日々を重ねる夏となりますように。

【ロザリオの祈り・栄えの神秘(水曜日・日曜日)】
1.イエズスは死から復活される(キリストの復活)
2.イエズスは父のもとに昇られる(キリストの昇天)
3.イエズスは父のもとから聖霊を送られる(聖霊降臨)
4.マリアは身も心も天にあげられる(聖母の被昇天)
5.マリアはイエズスの栄光にあずかられる(聖母の戴冠、天の元后)

2017年8月5日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : 長中西