ウクライナ戦争の終結のために祈りを捧げましょう

末吉町教会主任司祭 ヨゼフ 濱田 壮久神父

 2月24日のロシアによるウクライナ侵攻が始まる前日の2月23日(水)、フランシスコ教皇聖下は一般謁見の際に、今年の四旬節が始まる3月2日(水)をウクライナにおける平和のための祈りと断食の日とするように平和アピールをなさいました。バチカンニュースの日本語版では以下のように報じています。

https://www.vaticannews.va/ja/pope/news/2022-02/udienza-generale-appello-digiuno-per-la-pace-20220223.html

 「ウクライナにおける情勢の悪化のために心に深い悲しみを抱えています。ここ数週間の外交努力にも関わらず、その状況はいっそう危機的な展開を見せています。

 わたしと同じように、世界中の多くの人々が苦悩と不安を感じています。皆の平和が再び一部の人々の利害のために脅威にさらされています。

 神の前で真剣に良心を問いただすよう、政治責任を負う人々に呼びかけたいと思います。神は平和の神、戦争の神ではありません。神は皆の父であり、誰かのものではありません。わたしたちが必要とするのは兄弟であり、敵ではありません。

 国家間の共存を破壊し、国際法を軽んじながら、人々の苦しみを増すようなあらゆる行動を控えるよう、関係するすべて当事者たちにお願いします。」

 ここで、信者の皆さん、そうでない皆さん、すべての人に呼びかけます。暴力の悪魔的な無分別さに対して、神の武器、すなわち、祈りと断食をもって答えることをイエスは教えました。来る3月2日、「灰の水曜日」を、平和のための断食の日とするよう皆さんにお願いいたします。特に信者の皆さんが、その日を祈りと断食に熱心に捧げるよう励ましたいと思います。平和の元后マリアが、世界を戦争の狂気から守ってくださいますように。」

 この呼びかけの翌日、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まりました。この人道上の危機と悲劇を目の当たりにしたフランシスコ教皇聖下は2月27日(日)のバチカンのサンピエトロ広場でのお告げの祈りのメッセージの中で更なる平和アピールをなさいました。バチカンニュースの日本語版では以下のように報じています。

https://www.vaticannews.va/ja/pope/news/2022-02/angelus-appello-per-la-pace-in-ucraina-20220227.html

ここ数日、わたしたちは悲劇的な出来事に衝撃を受けています。それは戦争です。

 わたしたちはこの戦争への道をたどらないようにと何度も祈りました。このことについて話し続けましょう。神にもっと強く祈り求めましょう。

 こうしたことから、3月2日の「灰の水曜日」に行われるウクライナの平和のための祈りと断食の日への参加を改めて呼びかけたいと思います。ウクライナの人々の苦しみに寄り添い、皆が兄弟であることを感じ、戦争の終結を神に祈る日です。

 戦争をする者は、人間性を忘れます。人々の側に立たず、一人ひとりの命を見つめず、一部の利害と権力しか考えません。

 武器の悪魔的でよこしまな論理に頼ることは、神の御旨から最も遠いことです。また、それは平和を望む一般市民から遠ざかることです。あらゆる紛争において、戦争の狂気の代償を身をもって払う真の犠牲者は普通の市民たちです。

 今この時、避難先を探すお年寄りたちや、子どもを抱いて逃げる母親たちを思います。これらの兄弟姉妹たちのために、緊急に人道回廊を開き、避難者を受け入れなければなりません。

 ウクライナで起きていることに心を引き裂かれると共に、イエメン、シリア、エチオピアなど世界の他の地域で起きている戦争をも忘れることはできません。

 繰り返します。武器を置いてください。神は、暴力を行使する者とではなく、平和を作る人々と共におられます。

 イタリアの憲法が唱えるように、平和を愛する人は「他の人民の平和を脅かす方法、国際的係争の解決手段としての戦争を認めない」からです。

 このフランシスコ教皇聖下の平和アピールを受けて、この2月の司教総会から日本カトリック司教協議会会長に就任なさった菊地大司教様が2月28日には「3月2日の灰の水曜日に、ウクライナにおける平和のために断食と祈りを捧げましょう」という題の会長談話を発表されました。この談話の中に次のような言葉があります。

https://www.cbcj.catholic.jp/2022/02/28/24173/

戦争は自然に発生するものではなく、人間が生み出すものです。第二次世界大戦前夜、ヨーロッパにおいて国家間の緊張が高まる中で、教皇ピオ12世は、「平和によってはなにも損なわれないが、戦争によってはすべてが失われうる」(教皇ピオ12世1939年8月24日のラジオメッセージ)と、世界に平和を呼びかけました。

 戦後、東西対立が深まり核戦争の危機が現実となったときに、教皇ヨハネ23世は『地上の平和』を著し、ピオ12世のその言葉を思い起こしながら、「武力に頼るのではなく、理性の光によって――換言すれば、真理、正義、および実践的な連帯によって(ヨハネ23世「地上の平和」(62)」こそ、国家間の諸課題は解決されるべきであり、その解決を、いのちを危機に直面させ、さらには人間の尊厳を奪う、武力行使に委ねることはできないと主張しました。

 今日、大国による他の独立国への軍事侵攻という事態を目の当たりにして、その決断がいのちをいま危機に陥れるだけでなく、将来の世界秩序に多大な負の影響を与えるであろうことを憂慮します。

 わたしたちの「共通の家」が平穏に保たれ、真の神の秩序が確立されるように、政治の指導者たちが対話を持って解決の道を模索することを心から求めます。

 この平和を希求する祈りは、灰の水曜日だけに限定されるべきではないと考えます。私自身、灰の水曜日には断食をしつつ、9:00の港南教会のミサを捧げ、勤務校の栄光学園の中3倫理でも教皇メッセージを紹介しつつ、平和への願いを抱くことについて生徒たちにグループディスカッションをしてもらい、15:40から学園の灰の水曜日ミサを捧げ、19:30からは末吉町教会で英語ミサで中国語と日本語を交えつつ平和の祈りを捧げましたが、それぞれの場で復活祭までの四旬節の日々、ぜひウクライナの人々のために祈るように呼びかけました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:第1次湾岸戦争が勃発した1991年から2000年まで緒方貞子氏が女性初の難民高等弁務官を務めており、その頃のカトリック教会のカウンターパートである教皇庁難民移住移動者評議会議長は横浜名誉司教であったステファノ濱尾文郎枢機卿様でした)の3月4日付の発表では、すでに120万人以上が近隣諸国に難民として脱出し、最大で400万人以上が難民になる可能性があるとしています。また、ウクライナに留まる人々のうち、約1200万人が救済と保護を必要としているとしています。400万人前後の人口とは、クロアチアやクウェート1国分の人数です。約1200万人の人口とはベルギーやチュニジアやキューバ1国分の人数です。

 3月4日には日本カトリック会館で日本カトリック難民移住移動者委員会委員の定例委員会がありましたが、その際に日本の船員司牧部門担当者(責任者)として以下の報告をしました。それは、黒海に接続しているアゾフ海での商業船の運航停止を2月24日にロシア軍が要請し、ウクライナのマリウポルの港が閉鎖されたという話です。激戦地となっているマリウポルは日本で生活していると馴染みが無いかもしれませんが、アゾフ海の港からは小麦や大麦、トウモロコシ等がロシアとウクライナから輸出されており、この2か国で世界の小麦輸出の29%、人間の食用や牛等の家畜の肥料になるトウモロコシ供給の19%、ヒマワリ油輸出の80%を占めています。

 このマリウポルの港近辺で日本企業が所有する船が攻撃を受けましたし、ステラマリス(カトリック教会の船員司牧)ウクライナの活動拠点である、国際貿易港のオデッサ港の沖合ではエストニアの貨物船が機雷によって沈没しました。オデッサ港は工業製品等の輸出入の拠点港です。商船運航にまで影響が出るということは、日本で生活する私たちの日々の生活で消費する物資の輸入にも影響が及ぶということです。

ウクライナ戦争は、決して私たちの日常生活から遠い場所で起きている戦争ではありません。カトリックの信仰を生きる日々の中で「主の平和」が地上に実現するように願い、主の祈りの中で「み国が来ますように。み心が天に行われる通り、地にも行われますように」と毎日何度も祈るとき、地理的距離を越えて私たちは世界中の人道危機の渦中にある苦しんでいる人たちと神さまの家族の一員として連帯していくことになるからです。

これほどの人道危機が生じている中で、特に皆様にはロザリオの祈りを捧げ、聖母の取次のうちに祈っていただきたいと思います。1858年2月11日から聖母マリアはフランスのルルドで聖ベルナデッタに18回にわたってお姿を現しましたが、2月24日の8回目のご出現の際に、「罪びとの回心のために神様に祈りなさい」と告げ、罪びとのために「償い」を果たすように勧められました。また、第1次世界大戦の末期の1917年にポルトガルのファティマで5月13日から6回にわたって聖ルシア、聖ジャシンタ、聖フランシスコにお姿を現しましたが、7月13日の3回目のご出現の際に、少女達の前に姿を現した聖母は次のような言葉を告げられました。

「戦争はもうすぐ終わります。しかし人々が神に背くことを止めないなら、ピオ11世の時代にもうひとつのもっと酷い戦争が始まります。夜、不思議な光が、空を照らすでしょう。それがあなた達に神様がお与えになる大きな印になります。その後、神様はいろいろな罪を戦争、飢餓、教会と教皇の迫害の形で罰されるでしょう。」そして、「それを阻止する為に、私はロシアが私の汚れないみ心に奉献されることと、初土曜日に償いの聖体拝領がなされることを望みます。もし人々が私の望みに耳を傾けるなら、ロシアは回心し、世界に平和が訪れるでしょう。もしそうしなかったら、ロシアは世界中に誤謬を広めて戦争と教会の迫害を推し進めることになるでしょう。罪のない人達が殉教し、教皇には多くの苦しみが訪れます。いくつかの国はもう無くなってしまいます。それでも最後には私の汚れないみ心が勝利を収めるでしょう。教皇はロシアを私に奉献し、ロシアは私に回心するでしょう。そして、何年かの平和が世界に訪れるでしょう。」と伝えられました。また、「あなたたちがロザリオを唱える時、一連ごとにこう言いなさい。『ああイエズスよ、我らの罪を許したまえ。我らを地獄の火より守りたまえ。また全ての霊魂、ことに主の御憐れみを最も必要とする霊魂を天国に導きたまえ』」と仰って、ロザリオの祈りの各連の後に加える祈りを教えてくださいました。

私たちが平和を求めて祈るとき、申命記30章の神さまの御言葉は本当に力強い支えになります。

【申命記30章15節~20節】

15見よ、わたしは今日、命と幸い、死と災いをあなたの前に置く。 16わたしが今日命じるとおり、あなたの神、主を愛し、その道に従って歩み、その戒めと掟と法を守るならば、あなたは命を得、かつ増える。あなたの神、主は、あなたが入って行って得る土地で、あなたを祝福される。 17もしあなたが心変わりして聞き従わず、惑わされて他の神々にひれ伏し仕えるならば、 18わたしは今日、あなたたちに宣言する。あなたたちは必ず滅びる。ヨルダン川を渡り、入って行って得る土地で、長く生きることはない。 19わたしは今日、天と地をあなたたちに対する証人として呼び出し、生と死、祝福と呪いをあなたの前に置く。あなたは命を選び、あなたもあなたの子孫も命を得るようにし、 20あなたの神、主を愛し、御声を聞き、主につき従いなさい。それが、まさしくあなたの命であり、あなたは長く生きて、主があなたの先祖アブラハム、イサク、ヤコブに与えると誓われた土地に住むことができる。

 末吉町教会は聖母の汚れなき御心に奉献された教会です。聖母の汚れなき御心の取り次ぎのうちに、ウクライナの人々のために主の平和が実るように祈るとともに、ウクライナ戦争で命を落とした無辜のウクライナ市民の永遠の安息のため、また、徴兵制度によって自分の意志とは関係なく徴兵されて戦場に赴くことを余儀なくされて命を落としたロシアの若者たちの永遠の安息の為にも心を合わせて祈りを捧げたいと思います。また、意思決定権者たちが自分の名誉や権力、欲望のために政策を決定するのではなく、悔い改めて一人でも多くの命を守り、国際法によって承認されている国境線及び国家主権を脅かすことなく、それぞれの国家が有する独立が維持され、人々の日々の生活が主のもたらす平和に満たされていくよう、ロシアの意思決定権者の過ちのための償いの犠牲と祈りも心を合わせて捧げたいと思います。

この巻頭言を使徒聖パウロのコリントの教会への第2の手紙をもって結びたいと思います。

【コリントの教会への第2の手紙1章3節~11節】 

3わたしたちの主イエス・キリストの父である神、慈愛に満ちた父、慰めを豊かにくださる神がほめたたえられますように。 4神は、あらゆる苦難に際してわたしたちを慰めてくださるので、わたしたちも神からいただくこの慰めによって、あらゆる苦難の中にある人々を慰めることができます。 5キリストの苦しみが満ちあふれてわたしたちにも及んでいるのと同じように、わたしたちの受ける慰めもキリストによって満ちあふれているからです。 6わたしたちが悩み苦しむとき、それはあなたがたの慰めと救いになります。また、わたしたちが慰められるとき、それはあなたがたの慰めになり、あなたがたがわたしたちの苦しみと同じ苦しみに耐えることができるのです。 7あなたがたについてわたしたちが抱いている希望は揺るぎません。なぜなら、あなたがたが苦しみを共にしてくれているように、慰めをも共にしていると、わたしたちは知っているからです。

8兄弟たち、アジア州でわたしたちが被った苦難について、ぜひ知っていてほしい。わたしたちは耐えられないほどひどく圧迫されて、生きる望みさえ失ってしまいました。 9わたしたちとしては死の宣告を受けた思いでした。それで、自分を頼りにすることなく、死者を復活させてくださる神を頼りにするようになりました。 10神は、これほど大きな死の危険からわたしたちを救ってくださったし、また救ってくださることでしょう。これからも救ってくださるにちがいないと、わたしたちは神に希望をかけています。 11あなたがたも祈りで援助してください。そうすれば、多くの人のお陰でわたしたちに与えられた恵みについて、多くの人々がわたしたちのために感謝をささげてくれるようになるのです。

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