7月第2日曜日はカトリック「船員の日」

末吉町教会主任司祭 ヨゼフ 濱田 壮久神父

 横浜市では4月20日から特措法に基づくまん延防止等重点措置が公示され、8月22日までの延長が発表されました。このような状況の中で、会衆の参列するミサを継続し、教会の諸活動を実施するために皆様には新型コロナウィルス感染症拡大防止のために沢山の対策にご協力を頂いており、心から感謝しています。

 6月6日(日)はキリストの聖体の祭日でしたが、日本語ミサ中に中国共同体のレジオマリエ・プレシディウムに2名の新しい会員の誓約式が執り行われました。聖母マリアの模範に倣って、”Per Mariam ad Jesum”(ペル・マリアム・アド・イエズム:「マリアを通してイエズスへ」)という標語を大切にしながら祈りと使徒職に励んで下されば、と心から願っています。また、5月2日(日)にはベトナム共同体の赤ちゃんの幼児洗礼式がありましたが、6月13日(日)には中国共同体の赤ちゃんの幼児洗礼式があり、6月20日(日)にはフィリピン共同体の赤ちゃんの幼児洗礼式がありました。こうして、末吉町教会の信仰共同体が新しい神さまの家族を迎えることが出来ることは神様からの大きな恵み深い贈り物だと思います。それぞれのご家族が聖霊の息吹で満たされて、聖家族の模範に倣って幸せな日々を重ねていくことができるよう心を合わせてお祈り下されば幸いです。

 さて、7月の第2日曜日は教皇庁人間開発のための部署(Dicastery for Promoting Integral Human Development、長官:タークソン枢機卿)によって全世界のカトリック教会では「船員の日」として世界中の司牧者、信徒に船員たちのために祈るよう呼びかけられています。特に、日本は生活を支える物流の99%以上が海運に依存していますから、私たちの日常生活は船員の働きなしには全く維持できないことは明らかです。

 今年の「船員の日」のメッセージは「生活をつなぐ海路 - 船員が支える命の道 -」という題で日本カトリック難民移住移動者委員会の担当司教であるマリオ山野内倫昭司教様(さいたま司教)によって発表されました。その中には次のような文章があります。

2021年「船員の日」メッセージ

日ごろ、気に留めることはあまりありませんが、私たちの生活に必要な様々な物資や品物の多くは、海を介して運ばれています。したがって、世界の国々は「海路」(詩編8:9)によって互いに結ばれていると言っても過言ではありません。

海とその労働者:教皇フランシスコが大切にされている「周縁(ペリフェリア)」

 海の世界とそこで行われる人間の活動は魅力と価値のあるものですが、海で働く漁業従事者や船員たちには陸上とは異なる特別の厳しさがあります。大きな経済の課題にも直面しなければなりませんし、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響もより大きく、より深刻です。船員たちの多くは、ワクチンも受けられず、港に寄港しても船から降りて街に出かけることを許されず、中には契約期間を大幅に超えて18ヶ月間も交代できずに乗船したままで働いている人もいます。陸上での人々の活動がほぼ止まっている間でさえ、物資や商品の運搬のほとんどを担い続け、特に、重症の方に必要な医療機器を世界のどこまでも届けたのでした。

 ですから、教皇フランシスコは、厳しい条件の中で働く海の人々に特別に思いを馳せ、感謝し、こうした人々のために祈るようにと勧めておられます。そして教皇は、海の使徒職(ステラマリス)を通しての司牧的奉仕がさらに増えるように願っておられます。

さて、末吉町教会には横浜教区の船員司牧のステラ・マリスセンターも設置されており、神奈川第3地区は船員司牧に積極的に取り組んでいます。ちなみに、私自身も横浜教区難民移住移動者委員会の船員司牧担当司祭ですし、また、これまでは日本カトリック司教団の日本カトリック難民移住移動者委員会船員司牧コアメンバー委員会委員もしてきました。そして、この7月からは日本カトリック難民移住移動者委員会委員、同船員司牧部会責任者になりました。

 船員司牧についてはAOS(Apostleship of the Sea:海の使徒職)として1920年10月4日にスコットランドのグラスゴーで設立されたので100年を超える歴史がありますが、現在は全世界41か国、300を超える港で船員、漁師およびその家族への奉仕を実施していて、約230名のポート・チャプレンの司祭、数千名のボランティア・スタッフを擁しており、新型コロナウィルス感染症がパンデミックになる前までは、毎年、約7万隻を訪船し、のべ100万人以上の船員への奉仕が実施されてきました。

 その歴史は古く、1800年代後半、ロンドン、ブートル、モントリオール、ニューヨーク、ニューオーリンズ、メルボルン港で、船員たちの霊的、社会的、物質的な福祉の必要に対応するために、様々な船員への宣教団が活動が始まったことに端を発します。フランスでは被昇天のアウグチノ会が1894年12月に‘Société des Oeuvres de Mer’(海事協会)を設立し、医療と物的、倫理的、宗教的支援をアイスランド沖やニューファンドランド沖、フェロー諸島での深海漁業に従事するフランス人や他国の船員に提供していました。また、1890年代後半にはヴィンセンシオ・パウロ会の会員によってイギリスや世界各地の港での訪船活動が開始されます。

 1920年10月4日にスコットランドのグラスゴーで”Apostleship of the Sea”(AOS)の初会合が開催されましたが、AOSは「カトリックの男女が祈りによって結ばれ、神のより大いなる栄光のため、また、全世界の船員たちの霊的福祉のために働く会」 と定義され、会員たちは訪船し、カトリックの読み物や祈りや本やロザリオやメダイを配布するように勧められました。

その後、AOSは1969年に「国際キリスト教海事協会」(the International Christian Maritime Association)が設立された際の創立メンバーとなります。「ICMA」として知られているエキュメニカルな協会であり、現在、28の教団教派の船員司牧活動団体が参加しており、その活動は、国籍、宗教、文化、言語、性別、人種に関わらず、すべての船員、漁師およびその家族に奉仕することを目的とし、国際連合の「国際労働機関」(ILO)、「国際海事機関」(IMO)に加盟しています。なお、ICMAは2006年に発案され、2013年8月20日に発効した船員の雇用条件や福祉、医療、社会保障、レクリエーション施設、食事、宿泊施設についての国際条約である「海事労働条約」(MLC)の策定、批准にも大きく貢献しました。同条約は、2019年9月現在、海運の91%の総トン数を占める97か国によって批准されています。また、ICMA加盟のキリスト教船員司牧活動団体は世界中で船員の労働組合である「国際運輸労連」(ITF)や海運会社、代理店、政府との協力関係を築いています。

横浜教区における船員司牧の歩み

次に、横浜における船員司牧活動(ステラ・マリス)の歴史についてみていこうと思います。

1970年は日本における、また、横浜における船員司牧活動を考える際に転機となる年となりました。1969年に教皇パウロ6世によって自発教令『パストラリス・ミグラトルム・クラ』が発布され、教皇庁司教省によって指針『デ・パストラリ・ミグラトルム・クラ(ネモ・エスト)』が発表されたことを受けて、翌1970年には教皇パウロ6世によって教皇庁移住・旅行者司牧委員会が設立され、移住・移動者への司牧が重点的に全世界で強化されるようになります。また、1970年11月27日から29日の教皇パウロ6世によるフィリピンへの初めての教皇訪問を受けて、フィリピンに参集したアジア各国の司教協議会を代表する司教たちによってアジア司教協議会連盟(FABC)の結成が企図されたことで、教皇パウロ6世が推進した移住・移動者への司牧的ケアの提供はアジアでも国際的ネットワークに接続されて急速に拡大していきました。FABCは加盟司教協議会に対して、AOSについても推進担当司教の任命やチャプレンの任命、組織の構築について積極的に取り組むように働きかけました。これを受けて、日本カトリック司教協議会の中でも取り組みが始まり横浜教区でもAOS担当司祭(チャプレン)としてウェレンス神父が活動を開始しました。

1986年には後に教皇ヨハネ・パウロ2世によって教皇庁移住・移動者司牧評議会議長に任命されることになる当時の横浜司教、濱尾文郎司教によって、Apostleship of the Sea(カトリック教会・船員司牧)、 The Mission to Seamen(聖公会・船員司牧で日本聖公会とは別宗教法人)、Deustsche Seemannsmission (ドイツ船員司牧協会・ドイツのプロテスタント諸教会による船員司牧)、Dansk Somandskirke(デンマークの船員司牧教会・デンマークのプロテスタント諸教会による船員司牧)間で協定が締結され、横浜市中区役所前にあるビルで横浜船員センター(Yokohama Seamen’s Center)を開設し、訪船活動や船員たちの上陸後の市内での休息やリフレッシュのための諸活動、ミサやゆるしの秘跡をはじめとする霊的司牧、また、雇用問題にかかわる相談業務等の提供が組織的に行われるようになります。1992年のウェレンス神父の帰天を受けて、3名の司祭による共同司牧が行われましたが、1994年にはケベック外国宣教会のレイモンド神父がAOS専任チャプレンとして任命され、ボランティア・スタッフと共に、エキュメニカルな協力体制の下でAOS活動が推進されました。2007年にはAOS横浜委員会が発足し、横浜教区内でのAOS活動の協力体制が整えられていきます。2007年12月末のレイモンド神父のカナダ帰国を受けて、選任チャプレン体制から教区内の他の役職と兼務する兼任チャプレン体制へと移行する中で、教皇庁移住・移動者司牧評議会の下にAOSがあり、また、日本カトリック司教協議会においても社会司教委員会内の日本カトリック難民移住移動者委員会の下にAOSコアメンバー委員会が部門として整備されてきたことに歩調を合わせて、横浜教区でもAOSは横浜教区難民移住移動者委員会(ENCOM)の一部門として位置付けられていきました。なお、2008年4月17日には横浜船員センターが閉所となったことを受けて、横浜におけるエキュメニカルな船員司牧活動は個別の活動へと変化しました。2014年には末吉町カトリック教会の聖堂の新築、献堂式を経て、同聖堂棟1階に設置された横浜教区難民移住移動者委員会事務所およびステラ・マリスセンター(船員センター)が開設され、横浜港に寄港する船員たちに船員センターでの諸活動の提供を再開しています。

2021年6月現在、ステラ・マリス横浜では2名の担当司祭と17名の委嘱を受けたボランティア・スタッフを中心に船員司牧が展開されていて、訪船時や、プレゼント配布のためのラッピング作業時には、これまで実施してきた船員司牧研修会の際に興味、関心を示してくださった方々にもメールで情報提供をして参加を呼び掛け、ともに活動しています。

ステラ・マリス横浜においても全世界で活動する各地のステラ・マリスと同じく、主たる司牧活動は訪船活動です。2019年1月~12月は延べ72日間195隻を訪船しました。また、待降節から降誕節にかけては、東日本大震災の被災者の方々によるカリタス石巻ベースからの提供を含めて、30を超える小教区、修道会、団体、個人から手編みの帽子や船員へのクリスマスプレゼント用の物品提供を受けて、ラッピングしてクリスマスカードを付けて訪船の際にプレゼント配布しますが、横浜港、川崎港、清水港、焼津港で2237名の船員に届けることが出来ました。また、ステラ・マリス横浜センターは土曜日、日曜日に開所し、連絡を受けて本船まで乗組員の送迎も実施していますが、フィリピン、中国、韓国、ミャンマー、インドネシア等の188名の船員が利用しました。2017年には306名の船員がセンターを利用し、2018年度には269名の船員がセンターを利用したことを踏まえると、年々、船舶の大型化及び荷役の効率化が進み、また、船主が埠頭の接岸料を低くするために東京湾内での沖待ちを多用することで、船舶の埠頭への接岸時間が短縮されており、埠頭から市内へと出かける時間的余裕のある乗組員が減少していることが顕著なことが分かります。なお、センターでの船員の過ごし方は、市内で必要な買い物をしに出かけたり、Wifiに接続をして故郷の家族とテレビ電話を楽しんだり、ミサに参列したり等です。なお、新型コロナウィルス禍の中で、ステラ・マリス横浜センターの利用は、2020年は1月と2月の2回、7名のフィリピン人船員の利用にとどまり、2021年も新型コロナウィルス感染症拡大の状況の中で、船員たちが下船することを許可しない船主や船長が多く、センターの利用は6月現在、0人となっています。

ちなみに、訪船活動は船員たちとの交流を通してその気持ちに寄り添うことが主たる目標であり、コロナ禍以前は乗船した後、食堂等に案内されて船員たちとの分かち合いを行うことが多かったです。また、船員の中にはカトリック信者も多くおり、ゆるしの秘跡や船上ミサを捧げることもあります。船員が不慮の事故で陸上の病院に搬送された際には、病院での病者の塗油の秘跡や病者の聖体拝領式も執り行います。そして、船員が不慮の死を遂げた際には、船員への医療提供サービス会社と協力をして死亡診断書を作成するための医師らと一緒に本船に乗船し、乗組員と共に葬儀ミサを執り行い、帰天した船員の部屋の祝福式を執り行います。全世界のステラ・マリスでは漁船の乗組員やクルーズ船の運航に携わらない部門の従業員の司牧についても積極的な取り組みを始めていますから、ステラ・マリス横浜でもコロナ禍以前はエージェントからの依頼を受けてクルーズ船での乗客、従業員、乗組員のための船上ミサを捧げることもありました。

2020年から始まった新型コロナウィルス感染症拡大によるパンデミックは、ステラ・マリスが取り組む司牧活動について大きな制約をもたらすとともに、船員にも大きな負荷がかかっていることを2020年10月4日付のステラ・マリス100周年を祝う書簡の中で教皇庁人間開発のための部署長官のタークソン枢機卿は指摘なさっています。本来であれば、「海事労働条約」(MLC)に基づき、11か月以上の船員の連続した乗船勤務は禁止されていますが、新型コロナウィルス感染症拡大によるパンデミックで各国が空路での入出国に大きな制限を加えたために、交代要員が港に到達できずに連続した乗船勤務を強いられる船員が続出しています。また、30万人を超える船員が各国の港で上陸を制限され、船から外出することの出来ない生活を強いられているのが現状です。

このような状況の中で、東アジア・東南アジア地域コーディネーターのプリゴール神父の呼びかけで2021年3月以来、定期的にオンラインで担当司祭、修道者、ボランティア・スタッフによるZoom国際会議が重ねられ、ITFの総裁や海事専門の法律事務所の所長を招いてのオンライン研修も実施しました。なお、このステラ・マリス東アジア・東南アジア地域会議には、毎回、教皇庁人間開発のための部署の船員司牧部門から責任者のチチェリ神父をはじめ、計6名のスタッフも参加して現場の状況についてバチカンへの情報共有も行われており、ステラ・マリスの尽力でアジアではフィリピン政府の協力もあり乗組員の乗務交代コリドーが成立しました。また、フィリピンでは2021年5月からは船員たちの新型コロナウィルス・ワクチンの接種について第1種優先グループへの変更が実現し、フィリピン人船員へのワクチン接種が最優先で進められています。世界の船員に占めるフィリピン人船員の規模の大きさを考えるとき、世界の物流の安定性を維持するために大きな前進が見られたことは明らかです。

日本カトリック難民移住移動者委員会船員司牧部会では100周年にあたり、下記の祈りを作成しました。この7月の間、私たちの日常生活を支えるために、人目に付かない船上で大きな犠牲を払いながら仕事をし続ける船員たちのために、皆様にお祈りいただければ幸いです。

慈しみ深い神よ、わたしたちの生活を支えるために

今日もいのちをかけて世界の海を航海しているすべての船員たちとその家族を

あなたの恵みで満たし、真の幸せに導いてください。

母なる教会は、一人ひとりの霊的・物質的必要に応えてきました。

1920年から船員司牧に関わる全世界の司祭、修道者、ボランティアスタッフと心を一つに合わせ、

100周年を越えて、これからも船員たちとともに歩むことが出来ますように。

神の母聖マリア、海の星、すべての船員たちとその家族を母の愛で包んでください。

離れ離れになっていても、あなたの御子イエスのうちに一つに結ばれ、

家族の絆を守り育てることが出来ますように。アーメン。

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