11月は死者の月-煉獄の霊魂のために「全免償」を贈りましょう

末吉町教会「街の灯」2020年11月号巻頭言

11月は死者の月-煉獄の霊魂のために「全免償」を贈りましょう

末吉町教会主任司祭 ヨゼフ 濱田 壮久神父

11月はカトリック教会の伝統として「死者の月」を祈りのうちに過ごします。その始まりである11月1日には「諸聖人の祭日」をお祝いしますが、今年は日曜日にあたっているので、特に沢山の方と心を合わせてお祈りすることが出来ました。また、11月第1日曜日の末吉町教会の慣例に従って今年も日本語と英語のミサではそれぞれのご家族やご友人で帰天された方の芳名禄を祭壇に捧げ、特にお一人お一人の永遠の安息をお祈りすることが出来たことにも神さまからの大きな慰めを感じています。

カトリック教会にはローマ教皇の公式宣言によって公式に「聖なる普遍教会の聖人録」に名前が記される列聖式が執り行われた「聖人」が沢山いますが、この聖人たちだけが天国の住人というわけではありません。地上での人生の歩みの中で勇敢に福音的勧告を生き抜き、聖なる生活を歩んだ数えきれないほどのカトリック信者たちが、今や「至福直観」の恵みを頂きながら「聖人」として天上のエルサレム、つまり、神の御国で永遠の喜びを生きています。このような、カトリック教会の典礼暦において全世界で、または各教区で記念日や祝日、祭日が割り当てられていない全ての聖人を想い起して賛美する日として「諸聖人の祭日」をお祝いします。ちなみにラテン語では”Sollemnitas Omnium Sanctorum”(ソレムニタス・オムニウム・サンクトールム)と言います。なお、8世紀にグレゴリオ3世教皇(在位731年~741年)がローマのサンピエトロ大聖堂に「使徒と全ての聖人・殉教者のため」に聖遺物を安置した「小聖堂=(Oratorio)」を建立しましたが、この祝日が11月1日に祝われるようになっていったことで、「諸聖人の祭日」を11月1日祝うようになりました。なお、カール大帝の時代にはフランク王国内では11月1日にこの祭日を祝っていたことが記録されています。そして、835年にはルイ敬虔王の布告によってフランク王国内ではカトリック信者の「守るべき祝日」とされました。

それでは、全ての死者が死後、すぐに天国に迎え入れられるのでしょうか。神さまの救いの約束に心からの信頼を置いて地上での人生を終え、旅立ちの時を迎えたけれども、未だに果たしていない罪の償いのために「煉獄」で清めの時を過ごしながら、天国に迎え入れられる日を待ち望んでいる死者の霊魂がたくさんいます。ですから、「諸聖人の祭日」を祝った翌日である11月2日には「死者の日」の祈りを捧げます。ラテン語では”[Dies] in commemoratione omnium fidelium defunctorum”(ディエス・イン・コメモラツィオーネ・オムニウム・フィデリウム・デフンクトールム)と言いますが、直訳すると「全ての死せる信者の記念」の日といいます。

「死者の日」には煉獄にいる霊魂のために神さまの慈しみを心から求めて、死者の代わりとして「代願」の祈りを捧げ、ミサや死者のための聖務日課をはじめとする典礼が捧げられます。

煉獄については、『カトリック教会のカテキズム』1030項以下で次のように教えられています。

【最終の清め・煉獄】

「1030項:神の恵みと神との親しい交わりを保っていながら、完全に清められないままで死ぬ人々は、永遠の救いこそ保証されているものの、死後、天国の喜びにあずかるために必要な聖性を得るよう、ある浄化の苦しみを受けます。

1031項:教会は、永遠にのろわれた人たちの苦しみとはまったく異なる、選ばれた人が受ける最終的浄化を、煉獄と呼んでいます。教会は煉獄に関する信仰の教えを、とくにフィレンツェ公会議とトリエント公会議で表明しました。教会の伝承では、聖書の若干の個所に基づいた、清めの火というものを取り上げています。」

煉獄については、ラテン語ではpurgatoriumと言いますが、これは「浄化する場」という意味です。ドイツ語ではFegefeuerといって、「(罪の汚れを)払う火」という意味です。したがって、日本語の「煉獄」やドイツ語の「フェーゲフォイヤ」という訳語には、聖書にある「清めの火」という概念が色濃く反映されていることが分かります。

聖書の中で使徒パウロは次のように教えています。

コリント31017

03・10 わたしは、神からいただいた恵みによって、熟練した建築家のように土台を据えました。そして、他の人がその上に家を建てています。ただ、おのおの、どのように建てるかに注意すべきです。 03・11 イエス・キリストという既に据えられている土台を無視して、だれもほかの土台を据えることはできません。 03・12 この土台の上に、だれかが金、銀、宝石、木、草、わらで家を建てる場合、 03・13 おのおのの仕事は明るみに出されます。かの日にそれは明らかにされるのです。なぜなら、かの日が火と共に現れ、その火はおのおのの仕事がどんなものであるかを吟味するからです。 03・14 だれかがその土台の上に建てた仕事が残れば、その人は報いを受けますが、 03・15 燃え尽きてしまえば、損害を受けます。ただ、その人は、火の中をくぐり抜けて来た者のように、救われます。 03・16 あなたがたは、自分が神の神殿であり、神の霊が自分たちの内に住んでいることを知らないのですか。 03・17 神の神殿を壊す者がいれば、神はその人を滅ぼされるでしょう。神の神殿は聖なるものだからです。あなたがたはその神殿なのです。

使徒パウロは、イエス・キリストという土台の上に建てられた家が私たちであることを示したうえで、「かの日」つまり、「審判の日」に火によって全ての人の人生が吟味され、ある人のキリストという土台の上に「建てた仕事」は残り、ある人の建物は燃え尽きてしまうけれども、「火の中をくぐり抜けて来た者のように、救われ」る、つまり、「煉獄」の「清めの火」をくぐり抜けて救われることを教えています。また、私たち一人一人は神の神殿であるけれども、それを壊す者については、「滅び」の宣告を受けること、つまり、「地獄」へと落ちることをもはっきりと教えています。

聖書の中で初代教皇ペトロは次のように教えています。

ペトロ13b7

神は豊かな憐れみにより、わたしたちを新たに生まれさせ、死者の中からのイエス・キリストの復活によって、生き生きとした希望を与え、 01・04 また、あなたがたのために天に蓄えられている、朽ちず、汚れず、しぼまない財産を受け継ぐ者としてくださいました。 01・05 あなたがたは、終わりの時に現されるように準備されている救いを受けるために、神の力により、信仰によって守られています。 01・06 それゆえ、あなたがたは、心から喜んでいるのです。今しばらくの間、いろいろな試練に悩まねばならないかもしれませんが、 01・07 あなたがたの信仰は、その試練によって本物と証明され、火で精錬されながらも朽ちるほかない金よりはるかに尊くて、イエス・キリストが現れるときには、称賛と光栄と誉れとをもたらすのです。

Ⅰペトロ書では、「終わりの時に現されるように準備されている救いを受けるために、神の力により、信仰によって守られてい」ることを示したうえで、「公審判」のときに、つまり神の裁きの日に現わされる救いのために今しばらくの間、火で精錬されながらも朽ちるほかない「地上的物質」にすぎない金よりもはるかに尊い実りが、「清めの火」によって魂にもたらされることが教えられています。

私たちが「死者の月」である11月の間、死者の魂のために祈ることは、旧約聖書続編にあるⅡマカバイ記に記されているユダ・マカバイの死者のための祈りと重なり合うとき、神さまの恵み深さに信頼を置いた深い祈りとなって、「煉獄」で清めを待つ人々の魂にとってかけがえのない、この上なく美しい贈り物となっていきます。

マカバイ記123645

12・36 エスドリスの部隊が連戦の果て、疲労の極みにあったので、ユダは主に向かって、共に戦い、神自ら指揮をとってくださるように祈った。 12・37 そして、父祖たちの言葉で神を賛美しつつ、鬨の声をあげ、ゴルギアスの軍に不意打ちをかけ、これを敗走させた。 12・38 ユダは軍隊を率いてアドラムの町へ行った。第七日が近づいていたので、いつものように身を清め、その地で安息日を守った。 12・39 翌日ユダとその兵士たちは、いつまでも放置しておけないので戦死者たちのなきがらを持ち帰り、墓に葬って先祖の列に加えるために出発した。 12・40 ところが、それぞれ死者の下着の下に、律法によってユダヤ人が触れてはならないとされているヤムニアの偶像の守り札が見つかり、この人々の戦死の理由はこのためであるということがだれの目にも明らかになった。 12・41 一同は、隠れたことを明らかにされる正しい裁き主の御業をたたえながら、 12・42 この罪が跡形もなくぬぐい去られることを、ひたすら祈願した。高潔なユダは、これらの戦死者たちの罪の結果を目撃したのであるから、この上はだれも罪を犯してはならないと一同を鼓舞した。 12・43 次いで、各人から金を集め、その額、銀二千ドラクメを贖罪の献げ物のためにエルサレムへ送った。それは死者の復活に思いを巡らす彼の、実に立派で高尚な行いであった。 12・44 もし彼が、戦死者の復活することを期待していなかったなら、死者のために祈るということは、余計なことであり、愚かしい行為であったろう。 12・45 だが彼は、敬虔な心を抱いて眠りについた人々のために備えられているすばらしい恵みに目を留めていた。その思いはまことに宗教的、かつ敬虔なものであった。そういうわけで、彼は死者が罪から解かれるよう彼らのために贖いのいけにえを献げたのである。

このように、聖書に起源をもち、歴代公会議でも確認され、1962年から1965年にかけて開催された第2バチカン公会議でも確認された、カトリック教会の長い歴史の中で大切にされてきた「煉獄の魂」のために捧げられる祈りですが、教皇庁内赦院からは特に「免償の手引き(Manuale delle Indulgenze)」の中で特別な「免償規定」が付与されています。今年、2020年11月については、全世界での新型コロナウィルス感染症が猛威をふるっている現状に鑑みて、今年の11月のみ、以下の通り、免償規定が変更されることになりました。

a. 111日から118日までの各日において、故人のために、たとえ精神の上だけでも、墓地を訪問し、祈る者に与えられる全免償を、11月中の他の日々に代替できる。これらの日々は、個々の信者が自由に選ぶことができ、それぞれの日が離れていても可能である。

 b. 「死者の日」を機会に、聖堂を敬虔に訪問し、「主の祈り」と「信仰宣言(クレド)」を唱えることで与えられる112日の全免償は、「死者の日」の前後の日曜日、あるいは「諸聖人の日」に代替できるものであるが、信者が個々に選べる、11月中の別のある1日に代替することもできる。

高齢者、病者、そして、たとえばパンデミック時において、多数の信者が聖なる場所に集まることを避けるために当局から出された制限令など、重大な理由のために外出できないすべての人は、他のすべての信者と心を合わせ、あらゆる罪から完全に離れようとする心を持ち、全免償を得るために必要な通常の3つの条件(ゆるしの秘跡、聖体拝領、教皇の意向に従った祈り)を可能な限り早く果たす意志を持ち、イエスあるいは至福なるおとめマリアの聖画像の前で、敬虔に死者のための祈り、たとえば、「教会の祈り」(聖務日課)中の「死者の日」に唱える聖務の朝と晩の祈り、あるいは、ロザリオの祈り、神のいつくしみのチャプレット、その他、信者に最も親しまれている死者のための祈りを唱える、または、死者の典礼で提案される福音朗読箇所の一つを黙想しながら読む、もしくは自分の生活の苦しみと困難を神に捧げつつ、いつくしみの業を行うことで、全免償が与えられる。

ちなみに、規定a.にある例年の「11月1日から11月8日」という期間設定は、シクストゥス4世教皇(在位1471年~1484年)によって11月1日から8日まで「諸聖人のオクターブ(8日間)」が制定され、1955年の典礼暦改革によって義務のオクターブから外されるまで祝われてきた伝統に基づいています。

末吉町教会としては、今年も例年通り相沢墓地と上大岡墓地で墓参の祈りをお捧げします。今年からは、末吉町教会の司祭館に司祭が一人だけの体制になりましたので、第1日曜日には14:00の英語ミサも私が捧げますから、墓地での祈りは11月第2日曜日に移動することを教会委員会で決定しました。したがって、11月8日に相沢墓地では13:30から、上大岡墓地では14:45から祈りをお捧げします。今年は新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止の観点から、全員で声を合わせてお祈りしたり、聖歌をお捧げすることはせずに、皆様には沈黙で祈っていただくことになります。この墓地を訪問して捧げられる祈りによって「全免償」を受け、その「全免償」を煉獄の霊魂に贈ることが出来ます。

なお、末吉町教会の墓地にお墓をもっていらっしゃらない方も、今年については11月中のいずれの日でも、霊的な墓参をすることで「全免償」を受けることが出来ますので、ぜひ心を合わせてお祈り下さい。ゆるしの秘跡については、個別に申し出ていただければお授けいたしますので、この世を去った大切なご家族の霊魂に神様の慈しみ深さからあふれ出る美しい「全免償」の恵みを贈る方が一人でも多くなるように心から願っています。また、11月29日(日)にはイエズス会の赤松神父様(栄光学園チャプレン)による待降節黙想会が開催されますが、その際には赤松神父様と私とでゆるし秘跡も行いますので、その際にゆるしの秘跡を受けていただいても「全免償」を受ける条件を満たすことが出来ます。

カトリック教会は三位一体の神と共に永遠の賛美を歌う天使たちと諸聖人による「天上の教会」と、天国に迎え入れられる日を心待ちにしながら清めの時を過ごす霊魂がいる「煉獄の教会」と私たちが毎日の生活を送っている「地上の教会」という3階層からなっています。この3階層の教会が「聖なる、普遍の、使徒的、唯一の教会」であることを想い起しながら「死者の月」を通して「煉獄の教会」の霊魂を身近に意識して、清めを待つ霊魂のために祈りを捧げながら過ごす1か月になると素晴らしいですね。

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