2月8日は「世界反人身売買、祈りと黙想と行動の日(International Day of prayer and awareness against Human Trafficking)」

末吉町教会「街の灯」2019年2月号巻頭言

2月8日は「世界反人身売買、祈りと黙想と行動の日(International Day of prayer and awareness against Human Trafficking)」

末吉町教会主任司祭 ヨゼフ 濱田 壮久神父

1月13日(日)には成人式と新年会が行われ、7名の新成人の祝福式がありました。未来に向けての大きな希望に満ちている新成人が、神さまの恵みに満たされて素晴らしい歩みを重ねていくことが出来ることを本当に頼もしく思いました。

  成人式の後で、13日(日)深夜の飛行機でタイに飛び、14日(月)から21日(日)深夜に帰国するまでアジア司教協議会連盟(FABC)の神学関係局(OTC: Office of theological concerns:局長はタグレ枢機卿様(フィリピン・マニラ大司教))の会議に参加しました。例年、5月に会議が開催されますが、今年は聖座の教理省長官であるラダリア枢機卿様や第二次官のデ・ノイア大司教様他、教理省代表団との会議日程も組まれていたため、1月に開催となったそうです。

 会議は、神学関係局のメンバーとのプログラムと、アジア司教協議会連盟加盟の各国司教協議会にある司教団教理委員会委員長の枢機卿、大司教、司教と教理省とのプログラムが並行して行われており、写真のように、6名の枢機卿、19名の大司教、司教、そして私たち神学関係局の神学者委員での会議となりました。なお、今年FABC会長を退任したインドのグラシアス枢機卿様(教皇様の顧問枢機卿委員会の委員も兼任)や、新しく会長になったミャンマーのボー枢機卿様も参加していました。

今回のFABC-OTCの会議は、アジア司教協議会連盟が来年50周年を迎えるにあたり、アジアの教会の福音宣教について神学的洞察を行い、基本文書として2020年に発行するためのものでした。題名は”Our Journey Together: Encountering the Emerging New Realities in Asia.”(共に歩む私たちの旅:アジアで生じている新しい現実との出会い)というもので、南アジア、中央アジア、東南アジア、東アジアの現状を踏まえての文書となります。アジアは世界中の人口の6割が居住する地域で、カトリック教会の中でも多数を占めているのですが、それぞれの国や地域の置かれている状況が極めて異なるものであることを、今回、会議の中で改めて痛感しました。また、移住・移動者の送り出し国、受け入れ国の教会の連携についても深めて行くことが今後、ますます重要になることにも気づかされました。

さて、カトリック教会ではフランシスコ教皇聖下のイニシアチブで2015年から2月8日を「世界反人身売買、祈りと黙想と行動の日」と定めました。

国連の『国際移住機関』(International Organization for Migration: IOM)によると、人身取引(人身売買とも言う、Human Traffickingの訳) とは以下の通りとされています。

【人身取引(トラフィッキング)の定義】(http://japan.iom.int/activities/trafficking_top.html)

『国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(人身取引議定書)』 では、人身取引を以下のように定義しています。IOMもこの定義を採用しています。

「“人身取引”とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」

(同議定書第3条(a))

では、フランシスコ教皇様は、なぜ2月8日を世界反人身売買のための日にしたのでしょうか。

 

【2月8日は聖ジュゼッピーナ・バキータの記念日】

2000年に聖人に列聖されたカノッサ修道女会(Canossian Daughters of Charity)の聖ジュゼッピーナ・バキータ修道女は、1869年にアフリカ大陸にあるスーダンの南ダルフール地方のオルゴッサ村で男3人、女3人の6人兄弟のダジュ族の家に生まれました。

当時、スーダンでは地元の人を捕まえて、他の人に売り飛ばしてしまう悪い奴隷商人が沢山いました。ジュゼッピーナのお姉さんも1874年、運悪く、さらわれてしまいました。そして、1876年には、7歳のジュゼッピーナもアラビア人に誘拐され、奴隷商人に売られてしまい、とても苦しい奴隷としての生活をしなくてはなりませんでした。1ヶ月間監禁され、それから、必死で逃げ出しましたが、再び捕まりました。

ある日などは、はげしく殴られ、気絶して倒れても、血の海の中に放っておかれました。また、トルコの将軍に買われた時は、将軍の妻に、胸、お腹、腕などをカミソリで114か所も切られ、刺青を無理矢理いれられました。傷口はなかなか治らず、治療もしてもらえず、一カ月も放置されたこともありました。

  1885年、16歳のときにはイタリア副領事に買い取られ、イタリアのヴェネチアに移住し、ついに1889年、20歳のときに奴隷の身分から解放されて自由になりました。このときのことを、ジュゼッピーナは、「わたしが死ななかったのは、わたしをすばらしいことのために用意された主の奇跡なのです」と振り返っています。

自由になったジュゼッピーナは、カトリックの洗礼を受ける事を望み、1890年に洗礼と堅信の秘跡、そして初聖体をヴェネチア大司教のアゴスティニ枢機卿様から受けました。

そして、修道女として一生を神さまと人々のために捧げようと決心して、カノッサ修道女会に入会し、1896年には、シスターとしての修道誓願を宣立しました。そして、1947年、78歳で帰天するまで、神さまと人々のために全生涯を捧げました。

【聖ジュゼッピーナ・バキータ修道女のことば】

人々は私の過去の話を聞くと「かわいそう! かわいそう!」と言います。でも、もっとかわいそうなのは神を知らない人です。私を誘拐し、ひどく苦しめた人に出会ったら、跪いて接吻するでしょう。あのことがなかったら、私は今、キリスト者でも修道女でもないからです。

 2月8日は「世界反人身売買、祈りと黙想と行動の日International Day of prayer and awareness against Human Trafficking)」

聖ジュゼッピーナ・バキータの苦難に満ちた生涯を振り返るとき、現代でも幼いジュゼッピーナが体験したのと同じような苦しみを経験している子供たちや女性たちが世界中に沢山いることが分かります。聖バキータの経験は、今日も世界中で繰り返されています。

そこで、カトリック教会では2015年から2月8日を「世界反人身売買、祈りと黙想と行動の日」として世界中で聖ジュゼッピーナ・バキータの記念日を祝うとき、聖人の取り次ぎを祈りながら「人身売買に反対してともし火を灯そう」というテーマで世界中で祈りを捧げます。国際連合(United Nations)、のILO、国際労働機関(International Labor Organization)が調べたところ、2014年には、2100万人の人々が世界中で、人身売買(Human Trafficking)の被害者であり、毎年、新たに70万人から200万人が被害者になります。

2月8日には、世界中のカトリック教会は心を一つに合わせて、人身売買の被害者が1日も早く、この辛くて苦しい状況から助け出されるように心を込めて祈り、具体的な支援活動を促進するための取り組みを国際規模で深める決意を新たにします。

【フランシスコ教皇様の人身売買への言及】

フランシスコ教皇様は使徒的勧告『福音の喜び(Evangelii Gaudium)』(2013年11月24日)の中で次のように人身売買について言及しています。

211項:種々の形態の人身売買の標的となる人々の境遇には、つねに心が痛みます。わたしたち皆に訴える、神の叫びに耳を傾けてください。「お前の弟は、どこにいるのか」(創世記4・9)。奴隷にされている、あなたの兄弟姉妹はどこにいますか。非合法の町工場、売春組織、子どもを利用する物乞い、隠れて働かねばならない非正規滞在者の労働―そうした中で、あなたが日々殺している兄弟はどこにいますか。ぼんやりしていてはなりません。それは、数多くの共犯者を生むことなのです。神の問いは、あらゆる人に向けられています。マフィアによるこうした異常な犯罪はわたしたちの町に根づいています。そして多くの人が、安穏として黙っているという共犯によって、己の手を血で染めているのです。

マタイ福音書:イエス・キリストの困っている人への手助けの勧め―神の国を受け継ぐために

カトリック教会が反人身売買の立場を堅持するのは、イエズス・キリストの教えが背景にあります。マタイ福音書の25章でイエズス・キリストは次のように教えています。

 25:31「人の子は、栄光に輝いて天使たちを皆従えて来るとき、その栄光の座に着く。25:32そして、すべての国の民がその前に集められると、羊飼いが羊と山羊を分けるように、彼らをより分け、25:33羊を右に、山羊を左に置く。

25:34そこで、王は右側にいる人たちに言う。『さあ、わたしの父に祝福された人たち、天地創造の時からお前たちのために用意されている国を受け継ぎなさい。25:35お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていたときに宿を貸し、25:36裸のときに着せ、病気のときに見舞い、牢にいたときに訪ねてくれたからだ。』25:37すると、正しい人たちが王に答える。『主よ、いつわたしたちは、飢えておられるのを見て食べ物を差し上げ、のどが渇いておられるのを見て飲み物を差し上げたでしょうか。25:38いつ、旅をしておられるのを見てお宿を貸し、裸でおられるのを見てお着せしたでしょうか。25:39いつ、病気をなさったり、牢におられたりするのを見て、お訪ねしたでしょうか。』25:40そこで、王は答える。『はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。』

25:41それから、王は左側にいる人たちにも言う。『呪われた者ども、わたしから離れ去り、悪魔とその手下のために用意してある永遠の火に入れ。25:42お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせず、のどが渇いたときに飲ませず、25:43旅をしていたときに宿を貸さず、裸のときに着せず、病気のとき、牢にいたときに、訪ねてくれなかったからだ。』25:44すると、彼らも答える。『主よ、いつわたしたちは、あなたが飢えたり、渇いたり、旅をしたり、裸であったり、病気であったり、牢におられたりするのを見て、お世話をしなかったでしょうか。』25:45そこで、王は答える。『はっきり言っておく。この最も小さい者の一人にしなかったのは、わたしにしてくれなかったことなのである。』25:46こうして、この者どもは永遠の罰を受け、正しい人たちは永遠の命にあずかるのである。」

私たち一人ひとりが自分の生活の中で、自分の生活の安全が守られていることが神の恵みによる特別な境遇であることを改めて思い起こしながら、人身取引(人身売買)の被害に苦しんでいる人々に必要な助けがもたらされ、その境遇から脱することが出来るように、祈り、働きかけることが出来る2月になると素晴らしいですね。

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